安房教育研究所夏季研修会教育講演会

                     平成20819

演題「銀八先生 心の教育」

講師 福原好喜先生(駒澤大学教授 同大学院教授)





 今回の講演会は,「熱血教授 心の教育」と題した朗読劇を所員で進めながら行われた。

(1)やって見せる教育

御自身の紹介で,昨年の紀要の座談会の一節を読み「豊かな感性を育むために@太陽が昇るところや沈むところを見る。A大きな木に登る。B夜空いっぱいに輝く星を見る。」とあるのがこれはまさに自分のことだとユーモアたっぷりに話を始めた。

 続いて,40年以上雨でも台風でも欠かさず続けている早朝マラソンや,学生との合宿の話から,自ら「不言実行」による「自分の生き方を示し子供たちに考えさせる。(背骨を見せて生き方を考えてもらう。)」ことを行っていることを話した。


(2)阪神大震災

 阪神淡路大震災のときには,御自身所有のミカン山のはっさく全て(1t半少々)を支援物資として送り,ゼミでも募金活動をする一方,自身でも現地へ行きパワーシャベルが操縦できることを生かしてボランティア活動に参加しようとした。(実際には諸事情により行くことができなかったのだが。)


(3)駒大ウォーム・ハート賞

 経済学部創立50周年のときに御自身が中心となって世田谷少年少女ウォーム・ハート賞を創設。ときは平成の不景気の中,少しでも子どもたちの心の育成のためにと考えてできた制度だった。さらに駒澤大学にもウォーム・ハート賞を設け,表彰学生の就職活動に大学の選考委員会が一役買おうという計画も進んでいるという。


(4)クラークの教育

 明治初期に札幌農学校で教育にあたったクラークの有名な言葉“Boys be ambitious.”は「ambitious」を間違って受け取られてしまっていて,本当は「野心的な」という意味ではなく「高い志を持った」という意味で用いられていると語る。さらに,クラークは”Boys be a gentleman.”と普段は言っていたと言う。


(5)福原ゼミナール十訓

「銀八ゼミナール十訓」の第一条「理想を高く掲げ,日々の努力を怠らざること」に大変近く,「”gentleman”になること(経済的・精神的・日常生活的に自立をすること)を人間教育として御自身のゼミでおこなっているとのことだった。


(6)人材教育

 福原教授は平成大不況の渦中で,橋本総理へ4回,小泉総理へ3回,デフレ回避,デフレ脱却のための忠告書簡を送る。これは経済学者としてではなく”gentleman”として国民・国家への忠告をした。教授は常に,自己の利害より社会的利害,社会的貢献や弱者の救済を優先せよと教えている。


(7)
“Control your passions”

gentlemanの基本は自立心、self controlができているということだが食欲・性欲と並んでわれわれが自己抑制しなければならない人間の欲望の一つとして「物欲(金銭欲)」があるという。


(8)「質素を旨とし,浪費をなさざること」

 教授は「十訓」の第五条で「質素を旨とし,浪費をなさざること」と言っている。経済学としては貧しいよりも富んでいるほうがよいことを前提としているが,そこが経済学の限界点で,多くの人々が,お金があることが幸せなのだと勘違いしていると言う。バイトに追われて大学生を見て,Time is money.ではなくTime is more valuable than money.だと嘆く。「20歳の青春は1兆円でも買えない」のだと。教授が大学で行っている教育は「知識の教育」ではなく,「親や先生が居なくなっても自分の力で生きて行ける、又政治や経済の世界で権力に盲従しない独立心」・「人間の諸欲望を自分で制御できる自律心」・「常に自分のことよりも他人のこと,特に社会的弱者のことに先ず意を用いる公共心」を育てる「心の教育」であった。

(9)自分のパンツは自分で洗え

教授は普段から学生に「独立=自立」を求め指導に当たっている。「一に経済的自立,二に精神的自立,三に日常的自立」なのだそうだ。橋本総理や小泉総理へ全学生を対象とした無利子貸与奨学金を提案したのも,デフレスパイラル下での経済政策的提案という意味だけでなく,不景気で大学を辞めていく学生の救済も含め,200万人の学生を親から経済的に自立させるための深謀遠慮から出た提案だったそうだ。


 教授が大学で「知識の教育」だけでなく,「人間教育」を行っていることがよく伝わってきた講演会であった。それは義務教育に携わる私たちへの叱咤激励のメッセージと受け取れた。