今日の教育課題と教師のあり方

―教師、学校、子ども、家庭のかかわり―

玉川大学学術研究所特任教授 山極 隆 先生

 今日の教育問題を、学習指導要領の改訂の説明を通して理解させ、今日の教員が努力すべきこと・発信すべきことについて、お話をいただいた。

今回の改訂を一言で言えば、「国語や理科や算数(数学)の時間数が増えて、内容が充実し、科学技術の基礎を培う」「英語が入ってくる」などと言う人がいるが、実際には、「教員の資質能力の向上を通じて教室の規律と規範意識に裏付けられた子どもの学力を高めるとともに、教育活動の過程や成果を常時検証・説明・公開して教育の質を高め、過程・地域との連携に基づいて公教育の信頼を取り戻す」ということが、今回の改訂である教育再生の根幹にあると考える。

教育の再生をねらうには、必ず次の4つの手順が必要である。

1 現状認識・現状課題の把握    

2 現状をもたらした原因      

3 現状を脱却し今後目指すべき目標 

4 現状課題解決のための具体的な手段の選択・実施と結果の評価

である。

これは、どの学校の教育研究でもあてはめられることなので、十分認識していただきたい。

この手順に沿って、今回の学習指導要領の改訂でねらう教育再生を、話していく。

1 現状認識

 日本の教育というのは、戦後、大きく二つの流れがある。@教師主導→教えるべきことを、教師が主導で教える A子ども中心→興味・関心・意欲である。 昭和20年代は、占領下で、進歩主義的な教育が入ってきた。これは子どもの体験活動などが中心な、子ども中心な教育である。30年代になると、独立国家として再建する、という目標があきらかになってきて、教育内容の系統性の重視・理数教育の充実をねらった改訂になった。昭和40年代になると、30年代の思想がさらに強固になり、スプートニクショックなどもあって、理数教育の充実・教育内容の高度化が進められた。昭和40年代の内容は非常に高度であったが、高度経済成長とも相成って、勤勉な学習態度が見られた。ただ、内容が過密になったために、学習を十分に理解できない児童の増加や、社会の疲弊による教育現場の混乱が見られるようになってきた。そこで、国は、昭和50年代に子ども中心主義の学習内容に、変えた。子ども中心主義の流れは、3度の改訂にわたる。時間数は減り、総合的な学習が入れられ、完全週5日制が実施された。

 しかし、平成10年度あたりから、学力低下の問題が取り上げられるようになってきた。ゆとり教育が行き過ぎたのではないのかと言われるようになってきたのである。そこで学習指導要領は、「最低基準である」と国が発表したのである。発展学習が始まったのも、この最低基準という言葉を受けてのことである。

 子ども中心主義の教育によっていくことにより、興味を重視することが多くなることにより、子どもは物事を深く追究したり、じっくりと物事に取り組んだりすることが苦手になってしまった。これらの教育問題を解決し教育を再生しようと、平成20年の改訂が行われた。

2 現状をもたらした原因

昭和50年代・平成元年代・平成10年代の学習指導要領が続けて「子ども迎合主義」に傾いてきた。そして、「子ども迎合主義」という言葉の下、教育界では誰もが反対できない美辞麗句と理想論・観念論の氾濫が出現した。「まず子どもありき」という考えの奥底に、「すべての個性は正しい」という気持ちが生まれ、規範意識の徹底がきびしくなってきた。その結果、『あまい』教育が、行われるようになってきた。個性というのは、「基礎・基本」の訓練を通して、育てられるものであると認識しなくてはならない。しかし、基礎・基本を徹底して身につけさせる、ということは、子ども主体の学習というイメージからかけ離れているため、行いづらくなってしまった。結果、子どもたちに基礎・基本の学力が育たなくなり、忍耐力も育たなくなってしまった。


3 現状を脱却し今後目指すべき目標

では、この問題から脱却するためにはどうしたらいいか。これは、「質の高い教育・教室をめざす」ということである。教師主導で「習得型学力の確かな定着」を基盤に「活用・応用型の学力」を育てるということなのである。このためには、4つのプロセスを行わなくてはならない。@Mission Statements ASchool manifesto=具体的中期目標・短期目標 BManagement cycle =学校評価  COn Demand Education=子どもや保護者の期待にこたえる教育=やるべき内容をきちんとやる、責任のある教育 Doutcome based education=結果をだす教育 EEvidence based Education=証拠主義・データで示すことのできる教育 ,というプロセスである。 今までのように、教員が「一生懸命やりました」というだけでなく、「努力した結果、このようになりました」と伝えていきたい。また、学力低下は規範意識の低下によって生じてきているのだという認識を、教員はもっと持たなくてはならない。教師が意識して、育てようとすることによって、子どもの我慢強さ・根気強さも養えるのである。

4 現状課題解決のための具体的な手段の選択・実施と結果の評価

 教師は、子どもがやる気を起こし、よく理解でき、実力が身につくように教えられるように、教える職人に徹するべきである。また、一斉授業を重視し、その中で児童生徒が互いに切磋琢磨して発奮するように仕組まなくてはならない。また、継続的基礎学力テストの実施・公表は行うべきである。絶対評価のあいまいさを補うという隠れた目的もある。また、質の高い授業を構築するためにも、教員一人ひとりの授業力・学校の組織力・子どもの学習努力・家庭の教育力すべてにおいて、高めていくことが必要である。
 また、PDSAサイクル(PPlan DDo SStudy AAction)を繰り返し行うことによって、教育の質は向上していく。

教育は、教師の資質能力に大きくかかっている。子どもたち・保護者たちは、教師を選ぶことはできない。であるからこそ、教員は研修に努めることが大切であるし、自分を振り返って、「なぜ自分は教員になったのか」と、自分の理想とする教育像・子どもに育てていきたいものをじっくりと考えてほしい。